なりたいものがない人間は、誰にもふれてもらえないんだ

 


将来の希望みたいなものに正面衝突した。大学の時だ。

就職活動が本格化する少し前に、ああ私なりたいものなんて実はなかったんだ、と理解してしまった。糸を切るわけにはいかなかったから、ひとまずそれは置いておいて就職活動を続行した。

それもやっぱり無理なもので、途中で活動自体をやめてしまったのけど。


 

なりたいものになれない。


ではなく、


なりたいものがない。


 

正面衝突してわかったことは、なりたいものがないと人間は存在できないということだった。

 

なりたいものがあれば人は人に声をかけることができる。

作家になりたいんだっていえば、作品読もうかとか応募してみなよとか誰かが声をかけてくれるだろう。そんな夢を見るなんて、って言われることもあるかもしれないけど、とりあえず何らかの声をかけてくれるだろう。

だけど、何もないとなんにも言うことなんてないんだよね。

 

何者でもないその時に、なりたいものさえない人間は、ただただ無味無臭透明な何か。

雨が降ったら溶け出して区別できなくなってしまいそうな、オブラートで輪郭をなぞったような存在でした。

 

それから10年以上経って、今の私はまぁ、なにかしらのナニかになっているのだと思う。

だけどそれは人工着色料みたいなものなんじゃないか。そんな気がしてならない。


 ※2022.11.20 文学フリマ東京35にて配布しました。

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