- リンクを取得
- メール
- 他のアプリ
私はときどきこっそり、息子の靴を捨てている。
というのも、息子が靴を自分で捨てられないためだ。
息子は、サイズが合わなくなった靴や履き潰して穴の開いた靴を捨てない。わが家の玄関は小さく、靴箱も家族四人の靴を収納するには不十分だというのに。
ねぇ、これもう履かないよね。場所がないから、捨てていい?
そう聞くと彼は必ず「う~ん」と曇った声を出す。
「捨てないで」
またか。
しかたなく、靴箱に無理やり詰め込む。
だけど、現役の靴が汚れたり濡れたりした時に「これ履いてく?」と差し出せば「いや、いい。それ小さいから」と、ぴしゃりと断られる。今朝なんて、まだ濡れている靴を履いて出て行った。
いい靴はいいところへ連れていってくれるんだ、という話を聞いたことがある。
だけど履けなくなった靴は、どこへ連れていってくれるのか。
履かなくなった靴は、私たちを連れていくどころか、靴自体がどこにも連れていってもらえていないじゃないか。
履かれなくなった靴はただぐったりと、靴箱の奥で潰されていく。
玄関に出しっぱなしになっていた長靴を片付けていくと、靴箱の底から二年前に履けなくなった息子の靴が出てきた。
覚えている。
これは幼稚園の運動会に合わせて買った靴だ。お気に入りで、サイズが変わっても色違いを買って履いていたな。
覚えている。
ありがとう。
そう、声をかけた。
私は捨てる。
だってそうしないと、この家にはどこにも行けない靴ばかりが増えてしまうから。それは悲しすぎるから。