息子の靴を捨てる

 





私はときどきこっそり、息子の靴を捨てている。

 

というのも、息子が靴を自分で捨てられないためだ。

息子は、サイズが合わなくなった靴や履き潰して穴の開いた靴を捨てない。わが家の玄関は小さく、靴箱も家族四人の靴を収納するには不十分だというのに。

 

ねぇ、これもう履かないよね。場所がないから、捨てていい?

 

そう聞くと彼は必ず「う~ん」と曇った声を出す。

 


「捨てないで」

 


またか。

しかたなく、靴箱に無理やり詰め込む。

だけど、現役の靴が汚れたり濡れたりした時に「これ履いてく?」と差し出せば「いや、いい。それ小さいから」と、ぴしゃりと断られる。今朝なんて、まだ濡れている靴を履いて出て行った。



いい靴はいいところへ連れていってくれるんだ、という話を聞いたことがある。


だけど履けなくなった靴は、どこへ連れていってくれるのか。

履かなくなった靴は、私たちを連れていくどころか、靴自体がどこにも連れていってもらえていないじゃないか。


履かれなくなった靴はただぐったりと、靴箱の奥で潰されていく。

 

玄関に出しっぱなしになっていた長靴を片付けていくと、靴箱の底から二年前に履けなくなった息子の靴が出てきた。

覚えている。
 これは幼稚園の運動会に合わせて買った靴だ。お気に入りで、サイズが変わっても色違いを買って履いていたな。


覚えている。

 

ありがとう。

 

 そう、声をかけた。


 私は捨てる。
 だってそうしないと、この家にはどこにも行けない靴ばかりが増えてしまうから。それは悲しすぎるから。


 捨てないで、と言った彼がすでに忘れている靴に、再びお礼とお別れを言って送った。



ご連絡フォーム

名前

メール *

メッセージ *