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はじめてお呼ばれした誕生会は、親友のゆうこちゃんの誕生会だった。
当時の私は小学校1年生。
ゆうこちゃんは明るくて頭が良くて、内気な私にとってのあこがれだった。ゆうこちゃんのお姉ちゃんと合同で開かれたそのお誕生会に、お呼ばれしたのは同級生では私だけで、それはとても誇らしかった。
母といっしょに誕生日プレゼントを選び、緊張と期待で当日を迎えた。ゆうこちゃんのお姉ちゃんは何人もお友達を呼んでいて、少しばかり肩身が狭かったのをよく覚えている。
ゆうこちゃんはお姉ちゃんのお友達とも仲が良くて、ずっとニコニコと話していた。
学年が3つも違うお姉さんたちと仲良く話せるなんて、ゆうこちゃんはやっぱりすごい。私は彼女の笑顔を誇らしく、だけど少し複雑な気持ちで眺めていた。
ふわふわと落ち着かない気持ちのまま誕生会は進んでいく。
ゆうこちゃんが隣に来てくれた時だけはホッとした。元来、人見知りする質の私はいつまで経っても緊張が解けない。ふやけたエビフライをかじりながら、ああ、ケーキが楽しみだなとそればかり考えるようになっていた。
たっぷりの、真っ白な生クリーム。
つやつやのイチゴがそこに等間隔で並ぶ。
細くて長いロウソクに火をつけて、みんなで歌を歌うんだ。
「さぁ、ケーキですよ~!」
ゆうこちゃんのお母さんの声で私たちは、わぁっと歓声を上げた。
ケーキ。ケーキが来た。
ゆうこちゃんもお姉ちゃんも、そのお友達もみんな笑顔だ。もちろん、私も。お姉ちゃんのお友達が「ここにおいで」って隣に入れてくれた。
私たちはみんなで、ひとつのケーキを囲んでいた。
――お寿司ケーキを。
ピンク色の桜でんぶと黄色い錦糸卵で彩られ、海老が等間隔で並ぶ。そこには細長いロウソクが立てられていた。そこに火をつけて、私たちは歌を歌った。
ケーキ。ケーキ、なのか?
気がつくと切り分けられたそれが私の皿に乗っていた。食べ方がわからない。周りを見る。それに倣って、私もフォークを使って端っこから、ケーキみたいに食べた。
酸っぱくて、しょっぱい。
桜でんぶと錦糸卵がほのかに甘く、もしょもしょと口の中で混ざっていく。
「おいしい~!」
そう言ってゆうこちゃんは笑っていた。
私は残さないようにするのが精いっぱいで、ただ皿の上のものを口に運び続ける。
ゆうこちゃんの笑顔を私は盗み見る。どんな顔をしたらいいのかがわからなかった。恥ずかしいような、自分が場違いのような孤独感。
それは家に帰って「お誕生会、たのしかった?」と母に聞かれてからも、ずっと続いていた。
「あんた、本当にびっくりしてたわよね。ケーキがお寿司だった!って本気でしょんぼりしちゃって。ゆうこちゃんのところはお寿司がよっぽど好きだったのねぇ。ケーキがお寿司ケーキだなんてね。あははっ」
あれから20年以上経ってからも、母はこう言って笑う。
母の中でも「お誕生日ケーキがお寿司ケーキ」は一つの事件だったらしい。笑う母を見るたび、私は複雑だ。
ゆうこちゃんのことを笑わないで。
悲しいと思った小さな私のことを、笑わないで。
母になった今の私は、子どもたちに訊く。お寿司ケーキという選択肢を。
お誕生日のケーキは、お寿司ケーキにもできるんだよ。ああもちろん甘いケーキもほしいよね。だから、お寿司ケーキと生クリームのケーキを用意することもできるんだよ。好きにして良いんだよ。
今のところ、毎回「うーん。普通のケーキだけでいいや」と断られているけれど。
お寿司ケーキは、もはや私の野望だ。
いつか何食わぬ顔で、おいしいね、と子どもと笑って食べたい。
※noteからのお引越し記事です。
Lagon Journalという素敵エッセイサイトのコンペに応募するために書いたエッセイ。ありがたいことに佳作に選んでいただきました。